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ChatGPTに脅威を感じる前に、自分はちゃんと「人間」をやっているかを振り返ろう【仲正昌樹】

「AI以下」の人間とは? 「人間」らしく判断する能力とは?

OpneAIは米現地時間4月24日、ChatGPTなどOpenAIブランドを利用する際のガイドラインを公開。コンテンツ出典を示すクレジットは不要だが、入れる場合は「Written by ChatGPT」でなく、「Written with ChatGPT」を用いるように記された。

 

■現時点で「AI」と「人間」の大きな違いとは何か?

 哲学的な話になるが、ChatGPTが「人間」を越えているかどうかという問いに答えるには、まず、「人間」とは何かをはっきりさせる必要がある。言語・応答能力の話をしているのだから、生物学的な意味で「ヒト」であるかどうかは関係ない。ChatGPTの性能を基準に考えれば、他人からの問いかけに対して、その意味を理解し、相手が自然と理解できる文で答える、ということになるだろう。

 前々回の記事で述べたように、ChatGPTは、インターネット上のビッグデータから、どういう「問い」に対して、どういう「答え」を返すことが普通なのか、「人間」の標準値をその都度算出する。したがって、ビッグデータに適当なサンプルがなかったら、まともな「答え」を出せない。私たち人間がそのテーマについて、デタラメな書き込みばかりしていたら、ChatGPTもデタラメな“答え”しか生成できない。

 それに対して、「人間」はネット検索して情報収集するにしても、ビッグデータ上の関連データ全てを数秒でチェックすることなどできないし、見つけた文章を瞬時に比較して、標準解答を導き出すことなどできない。ChatGPTに比べると、かなり限定された情報収集・処理しかできない。その代わり、自分の経験や身体感覚を動員して、サンプルの候補になりそうな文について、それがありそうな話か、自分と同じ言語を話す人間の口から出そうな文章か、体感的に判断する。なので、多少の不正確さがあっても、「人間」同士で理解し合うことが通常は可能である。

 ハイデガー研究者としても知られる哲学者のヒューバート・ドレイファス(一九一九-二〇一七)は、人間は身体的な経験に基づいて、少ない情報から適切にリアクションを見出すので、AIとは異なることを指摘している。本当に「シンギュラリティ」が到来し、AIが、外付けの「身体」か「ヴァーチャル身体」で、快楽や苦痛を伴った経験をするようになれば話は別だが、今のところ、AIには「身体」がないので、自分自身の“経験”に基づいて、「こんなことはあり得ない」、と判定することはない。それが現時点での、AIと「人間」の違いである。

 しかし、ドレイファスも指摘しているように、インターネットが日常に普及し、実地体験が必要なはずの教育、伝達の場面でも、ネット中継が当たり前になると、身体性に根ざした「人間」固有の経験が希薄になっていくのは避けられない。コロナ禍の影響で、リモートがデフォルトになりつつあることで、ドレイファスの懸念に該当しそうな話をよく聞くようになった。

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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